わたしのダンスパートナーは ロシア人
ミロンガ(タンゴパーティ)では 数曲踊るごとに パートナーを変え
一晩で 何人もの相手とフロアを舞うが
彼と手を組んだ瞬間
その晩の いすとりゲームも 相性さがしも 終わり
永遠と 踊り続けたい気持ちのまま
名前と携帯番号とGmailアドレスしか知らない彼と
二人で朝まで 同じ距離を保つ
年齢も職も住まいも不明な彼が
まれに口を開いたときは
あまりにも強い ロシアなまりの英語が聴き取れず
踊りながす
興味がないわけではない
もっと知りたくない わけではない
ただ ただ いまの心地よさに
身をゆだねているだけ
ある日
混みあったミロンガで
彼が昔のダンスパートナーと踊っていた
ふたりは フロアの誰とも目を合わせぬまま
互いの腕の中で 何時間も おどり続けた
ふたりから 目が離せないまま
ふと頭をよぎる
彼女は
彼の家族のこと 彼の過去のことを
知っているのだろうか
彼はどんな食事をとり どんな本を読んでいるのか
彼女に話しているのだろうか
当たり前のように 受け入れていた
居心地の良さに気付かされる
恋人ではない相手に やきもちをやく心は
コトバであらわしきれない 関係と感情を示す
かっこわるい 欲張りなハートは
ガウディーのアーチを眺めているうちに
すぅ~っと清くおさまる
そして 雨降る日に
急いで戸を明け 立ち寄った旧市街のカフェで
とびっきりスパイスの効いたチャイを頂いているうちに
ぴりりっと引き締まった そのわがままなハートは
またひとつ
傷つきやすく 傷つけやすい じぶんとの
付き合い方を まなぶ
写真集: ガウディ建築の La Pedrera & Casa Batllo
旧市街のカフェCaj Chai