おそる おそるおそる
古い建物の中に入り
みしみしと音をたてながら階段を上がっていくと
別世界 La Catedralが わたしを迎え入れてくれた
天井から吊り下げられた 大きく真っ赤な心臓光と
壁いっぱいに飾られたアートたちを照らす ほこりくさい照明が
薄暗闇でタンゴを踊るひとかげを
ぶきみに演出させている
昨夜のミロンガで出会ったNahuelは
ここが食物加工用の倉庫跡地だった10年前
アートとソファと仲間と大きなハートをかき集め
ミロンゲーロたちの新しい交流場を創り上げた
他のどのミロンガにもない
アットホームな手作り感 アーティスティックな迫力
アンダーグラウンドなひびき エッジのきいた空間
反抗的なにおい
「タンゴは優雅なだけじゃないぜ エレガントなだけではないぜ」
と嘆くNahuelと同じように このとがった場所は ひとを選ぶ
「この空間を気持ち良く思えるひとは ぼくたちの仲間。
かれらは自然と用意された席に戻ってくるんだ。
そのかわり、この場所が肌に合わないひとは
入ってきた瞬間から この暗闇でも悪目立ちする。
かれらは瞬時にここを去り
もう2度と目にすることがない」 と。
Nahuelは 特等席ソファに座りながら
この場所が 自分の子供のように 生まれ 育ち そして その赤いハートが
多くの人々の鼓動を鳴らしてきたことに喜びを感じてきた
そんな彼だからこそ 愛する場所に対する縄張り意識がはたらく
そんなNahuel地帯で深夜
彼と 心ゆくまで躍る
わたしのハートも 薄暗闇の中 大きく 真っ赤に 光る
そして はっと気付かされる
どのミロンゲーロよりも繊細で情熱的な彼の踊り
Nahuelは もしかすると
誰よりも 優雅で エレガントな心の持ち主なのかもしれない